2023年シーズンの演目です。「メットのワグナーってどんなものなのだろうか」と考え、ライブビューイングを地元の映画館に見に行きました。期待していなかったのですが、予想を裏切る素晴らしい演出、演奏でした。
メットのワグナーというと古典的な舞台や衣装による演出ばかりと思っていたのですが、いつの間にかヨーロッパ最先端「読み替え」演出を追っかけるようになっていたのですね。
今回のローエングリンもその例で、時代は核戦争後の未来。人類は地下に住むようになったという想定のようです。舞台中央に天上(天井 ?)を見上げる大きな穴が空いていて、そこから空や月が見える。
こんな感じです(写真はこのライブビューイングを案内するサイトの映像と写真から)。第一幕、テルラムントがエルザを弟殺しで告発する場面です。赤い月が印象的です。
このオペラで合唱が重要な役割を担っているのはご存じの通りですが、この合唱(群衆として)の演出が見事です。
ご覧のようにこの場面ではテルラムント側は赤、国王側は緑のガウンを着ています。このガウンですが、裏返すと色を変えることが出来ます。これが演出上の有力な武器として使われます。
そしてエルザが登場する。エルザに照明をあて群衆のガウンの色が消える。舞台の印象がまるで変わります。
エルザは身の潔白を証明する騎士の登場を予言する。舞台は暗くなり、天上も闇となる。
ローエングリン登場の直前。天上が明るくなり、月が白鳥のような姿となり、ローエングリンが現れる。
ノーネクタイ、ワイシャツ姿。ビックリですね。しかし、不思議に周りの光景に調和しています。
群衆のガウンは色が白に変わっています。
そして裁判(決闘)の場面。天上の月が消え、赤と白の不気味なシュルエットが表示される。
第一幕終わり近く。裁判が終わり、天上も地下も緑と白を基調とする色彩に変わる。鮮やかな印象を残します。
次に第二幕。
オルトルートが復讐を誓う場面、天上は真っ暗です。
オルトルートがエルザにローエングリンの素性を問うことを暗示する場面。天上の穴はクッキリ見えるが、中身は真っ暗。しかし、右上部に何か怪しいものが。
群衆のガウンは白。
最後に天上にははっきりと罠の象徴が。群衆のガウンも黒に変わっています。
第三幕
結婚行進曲です。この曲が結婚を祝う曲でなく、これから先の悲劇を予見させる場面であり、曲であることよく分からせる演出、演奏でした。
遂にエルザがローエングリンクに素性を問い質す。天上から月は消え、怪しい雲のみ。
テルラムントによるローエングリンへの襲撃が再び失敗に終わり、テルラムントは死ぬ。天上からはオルトルートが襲撃の首尾を覗いています。
テルラムントによるローエングリンへの襲撃が再び失敗に終わり、テルラムントは死ぬ。天上からはオルトルートが襲撃の首尾を覗いています。
最後にローエングリンは故郷に帰る。天上の色彩は緑に変わる。この色は一幕の終わりと一緒ですね。エルザには悲劇だったが、地下の王国の平和は保たれたということなのでしょう。
そして、天上は再び赤に。どういう意味なのですかね ?
このオペラはヒトラーが愛聴したので、悪いイメージをもたれてしまい、読み替え演出が必須となっているようです。
バイロイトでは結婚行進曲はネズミの行進というような超過激な読み替えもあるようですが、今回の読み替えは見事なものだと思いました。
問いあかせない謎に苦しみ、破滅する悲劇は地球が核の灰で住めなくなっても続く。解決は宇宙から来るという解釈は面白いですね。
オルトルートはマクベス夫人を思い起こさせますが、あまり指摘する人がいなませんね。ワグナーがシェイクスピアの影響を受けたという話は聞きませんが、この強烈なキャラクターの二人の女性には多くの共通点があると思います。
ヒトラーもオルトルートを愛し、同じ手口でドイツ国民を欺き、まんまとナチ政権を登場させ、悪の限りをつくした。スターリンもプーチンもいっしょ。ということですね。