「レコ芸」クラウドファンディング

「レコ芸」クラウドファンディング

久しぶりに音楽之友社のサイトを見に行ったら、「『レコード芸術ONLINE』クラウドファンディング実施のお知らせ」という記事を見つけました。
記事には以下のキャプションが続きます。

音楽之友社では、2023年7月号で休刊した月刊誌『レコード芸術』を、内容刷新のONLINEメディアとして再生させるべく、2024年4月10日10:00よりクラウドファンディングを実施します。

昨年4月の「『レコード芸術』休刊のお知らせ」から約1年。ようやくここにたどり着いたようです。

以下、

『レコード芸術』から『レコード芸術ONLINE』へ

というタイトルで

・・・
たどりついた答えは、『レコード芸術』の核となる「新譜月評」を刷新し、ビギナーからコア層まで幅広く対象とする、クラシック音楽の録音・録画メディアのポータルサイト『レコード芸術ONLINE』として生まれ変わらせることでした。
『レコード芸術ONLINE』は有料会員制のウェブマガジンですが、
・・・

と続き

『レコード芸術ONLINE』の主な構成

が紹介されます。

こんな感じになるらしい。月評、新譜一覧、特集、連載というのは今まで通りですが、

CD・レコード/ストリーミング、国内盤/海外盤を問わず、原則として、製品として作られたものから、毎月総計約100点を編集部が選定し、ジャンル別に総勢約20名の執筆者が、「推薦」「準推薦」「無印」の3種類の基準のもと批評します

となるらしい。ストリーミングやサブスクの比率がどの程度大きくなるかが勝負でしょうね。
気になるのは「毎月総計約100点を編集部選定し・・・3種類の基準のもと批評」という部分。何か勘違いしているのじゃないだろうか。旧レコ芸で、評価中心の新譜批評は読み飛ばしたページで、印象に残るページは少なかった。むしろ評価のない最新盤レビューや海外盤批評、ストリーミング紹介の方に面白い記事が多かった。

さて、タイトルにある通り、この新レコ芸は、クラウドファンディングを使い、スタートするようです。

クラウドファンディングというのはインタネットで資金を集め、取り組みたい活動(プロジェクト)を実現するための仕組みです。クラウドファンディングの担い手は音楽之友社となります。音楽之友社は株式会社ですし、自前のサイトを運営してますから、当然自分の資金とノウハウを使ってオンライン雑誌を発刊することが出来る。なのに、わざわざクラウドファンディングという仕組みを使うのは何故か。経営的に自信が持てないということなのでしょうね。

クラウドファンディングにはリターンが無い寄附型、商品/サービスとなる購入型、株式/配当てどの金融型の3種類があります。新レコ芸はWebサイトに掲載される情報に金を払うという形が中心なので、商品/サービスの購入となる購入型となります。購入型の場合、プロジェクトの実施を、資金の調達状況で決めるか(All or nothing)、無条件に行うか(All in)、選ぶことが出来ます。
『レコード芸術ONLINE』はCampfireを使って資金調達を行う予定です。そして、集まった資金が目標金額を上回った時のみ実施する All or nothing 方式をとるようです。この詳細が興味深い。詳細の説明をするためには新レコ芸のリターンメニューの内容を知って頂く必要があります。

この表が『レコード芸術ONLINE』のリターンメニューです。簡単に紹介しましょう。
①1万円の資金提供 : 新レコ芸1年分の講読
②2万円の資金提供 : ①+電子版(旧レコ芸)のバックナンバー(2020年12月号~2023年7月号)が1年間読み放題
③3万円の資金提供 : ①+②+講演会(レクチャ)のオンライン受講
④10万円の資金提供 : ①+②+③+講演会(レクチャ)の会場受講
⑤30万円の資金提供 : ①+②+③+④+レコード鑑賞サロンにご招待
⑥100万円の資金提供 : ①+②+③+④+⑤+音楽の友ホールプレミアムコンサートにご招待
⑦150万円の資金提供 : ①+②+③+④+⑥+音楽の友ホールを使った演奏録音会

以上の詳細はCampfireの事前公開プロジェクトページに紹介されています。

新レコ芸の All or nothing 方式ですが、

■中核となる新譜月評(有料記事)

■新譜一覧表(有料記事)

■アーカイヴ連載(有料記事)

■『レコ芸』執筆陣による「講座」の実施(有料)

■先取り最新盤レビュー(無料記事)

■アーティスト・インタヴュー(無料記事)

という内容で

目標金額の1500万円を達成したら、ストレッチゴールを2000万円に設定し、ストレッチゴールを達成した際には、下記をはじめとしたコンテンツを順次拡充していきます。

■ONLINEメディアならではの新連載(有料記事)

■多彩なテーマで毎月更新する特集(有料記事)

ONLINEメディアとして求められる「時代への即応性」を意識した連載をスタートさせます。

そして

資金の使い道

原稿料や取材費、デザイン費、人件費など、『レコード芸術ONLINE』の1年間の制作費・運営費に充てさせていただきます(CAMPFIREの手数料も含みます)。

だそうです。

「アーカイヴ連載」、「新譜一覧表」はほとんど制作費はかからないでしょうから、新譜月評をオンラインで制作運営する費用が約1200万円、連載/特集などを入れた制作運営費が約1600万円となります(CAMPFIREの手数料は18%です)。会員規模数千人の有料のオンライン情報サービスのサイトを構築費用は500万円程度はかかるようです(BingAIに聞いてみました)。音楽之友社の場合、物販用のサイトは構築済なので、その環境を利用すれば、費用は抑えられるとは思いますが、それなりの資金は必要ということでしょう。

昨年7月のレコ芸の休刊時の読者数が2万人だったそうですので(音楽之友社)、10%の2000人が②に応募すれば、ストレッチゴールはクリアできそうです。

また、昨年の休刊のお知らせに対して、change.orgに「雑誌「レコード芸術」の存続を求めます!」という署名キャンペーンが行われ、3500人程度の賛同者がメールアドレスを開示し署名しています。

資金調達の目標はこれらの数字を参考にして設定したのでしょう。

ちょっと気になるのは、上に引用したストレッチゴール達成後の新連載、特集の紹介の後に

■「新・レコード・アカデミー賞(仮称)」の実施

これまでの「レコード・アカデミー賞」を発展的に解消し、CDだけでなく、あらゆるメディアを対象とした「新・レコード・アカデミー賞(仮称)」を創設します。

とあること。

「うーむ、まったくの旧態依然。こういう名盤主義から脱却するための『レコード芸術ONLINE』だったじゃないの」と言いたくなる。

レコ芸は2020年から「新時代の名曲名盤500」という5回の特集で過去の名曲名盤を一新したCDの紹介を行いました。僕は「あらレコ芸も変わるかな、これはサブスク対応ということかしら」と思い、感心したのですが、変わってなかったようですね。

一世紀前の名曲名盤主義の新譜月評なんて読む気にならない。この調子では『レコード芸術ONLINE』も先が思いやられるなぁ。

PAGE TOP