ブゾーニの Fantasia contrappuntistica についての話をもう少し。
Fantasia contrappuntistica のオーケストラ版にギーレン指揮、シンシナティオーケストラの録音を発見したので、ご紹介します。素晴らしい演奏です。ギーレンらしい厳しい表現が印象的です。
まるでバルトーク。こういう演奏で聴くと、この曲は20世紀前半の傑作だとよく分かります。緊張感が凄い。バッハが現代に蘇ったという感想です。
このオーケストラ編曲ですが、Fantasia contrappuntistica の2台ピアノ版をベースにしているようです。2台ピアノ版のスコアはここにあります。
オーケストラの編成は Arrangement for double string orchestra, piano, 2 harps and celesta ですので、まさにバルトークですね。編曲者はブゾーニ研究家の Antony Beaumont さんで、1971年完成、1977年に出版されているようです。
2台版も面白いと分かったので、YouTube動画捜ししました。前回ご紹介した「AOF補完稿」のBusoniの紹介は充実していて、こんなページもありました。
AOF補完稿のリストには無い動画ですが、この演奏が素晴らしい。
二台版はソロ版をベースにはしていますが、かなり異なる編曲です。ソロ版が超絶技巧中心なのに対し、こちらは二台のピアノの掛け合いが凄いです。曲頭の部分のテーマのまるで違う扱い方にビックリ。
このような曲を聴くと、「ブゾーニって、イタリア生まれなのに、ドイツ風の様式で作曲する変な奴」という認識を改められます。20世紀前半、ストラヴィンスキー、バルトーク、シェーンベルクと並ぶ作曲家だと思います。
本題に戻します。
フーガの技法(AOF)は残されたスコアに対して、どんな楽器(編成)で弾くか、テンポはどうするか、どのような順番で演奏するか、未完の最後のコントラプンクトゥスをどう処理するか など謎だらけです。
既にご紹介しましたが、この謎解きをするサイトが日本には二つあります。
「海外はどうなっているのだろう」とググったら、こんなサイトを発見しました。凄い情報量で、最新の情報をカバーしていますので、簡単にご紹介します。
Harf of the Alphabet という名前のサイトです。内容は怪盗ルパンとAOF-14(フーガの技法未完フーガ)の情報を集めたブログです。何故、ルパンとAOF-14が一緒になるのかは謎。
ただAOF-14の完成版情報の精度は最高レベル。曲だけでなく論文などの情報もそろっています。また、ルパン情報は2019年に作成され、1回更新されただけのようです。これに対しAOFは2021年に開始され、現在も活発に更新されています。というわけで、AOF未完フーガに中心のサイトですね。Aboutからの引用です。
It appears to be evolving more into an exploration of the Unfinished Fugue, which exists as an intriguing historical mystery, and I’m planning to explore this more deeply as time goes on.
AOFに関するまとめページはこちらです。
このトップページから以下のAOF関連の情報をまとめたページにアクセスできます。
サイトはブログとして構成されていますので、過去からその時々のテーマで記事が並んでいます。一般のブログとの違いは著者が仕入れた最新の情報で過去の記事内容がメンテナンスされていることです。
例えば、一番最初に書かれた「Art of the Fugue – Contrapunctus XIV」という記事は2021年7月20日に書かれていますが、2023年6月23日に大幅に書き換えられているようです。
というわけで、以下、古い順に記事を紹介しますが、「Updated」は書き換えられた日です。
- Art of the Fugue – Contrapunctus XIV (Updated 23/06/23)
コントラプンクトゥス XIV の謎と謎解きの内容を網羅的に紹介しています。網羅のレベルが深いので、必読ですね。これを丁寧に読めば、貴方もAOF C-XIVの賢者となれます(^^)。 - Contrapunctus XIV Completions (updated 25th November 2024)
コントラプンクトゥスXIVの完成版の情報です。上記日本のサイトの情報も取り入れていますので、現時点で、多分、一番完璧なものとなります。2024年11月25日が最新版です。 - Art of the Fugue Bibliography (updated 15/04/23)
AOFの参考文献の一覧です。リソース、書籍、ビデオ講義/ポドキャスト、楽譜と解説、インタネット情報、論文に分かれて凄い件数です。
後に整理され、An Updated “Die Kunst der Fuge” Bibliography (Papers) と An Updated “Die Kunst der Fuge” Bibliography (Books) になったようですが、こちらだけに残っている文献もあり、よく分かりません(^^;;;。 - Art of The Fugue Curiosities (updated 06/05/22)
フーガの技法を素材にした後世の作品を紹介します。モーツアルトからウェーベルンまでの作曲作品だけでなく映像作品、風変わりな演奏など様々です(だからCuriosities)。
脱線します。
どうせだから、日本ではバレエでも演じられているよと教えてあげるかな。
初音ミクの演奏もついでに教えるかいな(^^;;;。画像はYouTubeリンク画面です。クリックするとリンクページにジャンプします。

戻します(^^;;;。
- The Mystery of CXIV (Update 20/02/22)
コントラプンクトゥスXIVの謎と解明の手がかり(作品、作曲者、初版譜、自筆譜などAOFに直接関連するデータ)を列挙し、それぞれの内容を解説しています。これも必読です。
The Mystery of CXIV(CXIVの謎)がThe Unanswered Questions(残された質問)とLines of Enquiry(調査の方向性)というタイトルで箇条書きに完結&適切にまとめられています。素晴らしい内容なので、そのまま引用しましょう。
The Unanswered Questions(残された質問)
- Is CXIV actually part of the AoF? CXIVは本当にAoFの一部なのか ?
- Was it intended to be the finale or was there to be more? それはAoFのフィナーレとして作曲されたのか、それとも何か別にあるのか ?
- Why has it down come to us unfinished? 何故未完成で終わっているのか ?
- Was is intended to be a quadruple fugue? 4重フーガとして意図されているのか ?
- Was the AoF’s main theme to be the 4th theme? AoFメインテーマがその4番目のテーマなのか ?
- What form would the completion take? 完成形はどうなるのか ?
Lines of Enquiry(調査の方向性)
- Written accounts of AoF by Bach’s contempories. バッハと同時代の人々によるAoFに関する書き物
- The piece itself 作品そのもの
- Other fugues and canons within the AoF. CXIV以外のAoFのフーガ(コントラプンクトゥス)とカノン
- Bach’s oeuvre as a whole, including use of mathematical ideas and Gematria, Biblical allusions, fugal technique and links between these. 数学的概念とゲマトリア、聖書の暗示、フーガ作法、そしてそれら重なり合い、つまりバッハの作品全体。
- The AoF manuscripts including analysis of handwriting, corrections, page numeration, scoring etc AoF写本における、バッハの筆跡、訂正履歴、ページの割り振り、数え方などの情報
記事では、後半にWitness Testimony というタイトルで上記 Lines of Enquiry に関連するドキュメントの紹介がされています。この内容については次のContrapunctus XIV: Witness Testimony で補筆されています。
- Podcast: WTF Bach
WTF Bach に関するポドキャストの紹介です。聞くにはボドキャストのアカウントが必要です。20/03/22、16/02/22 に追記されています。 - Contrapunctus XIV: Witness Testimony (updated 20/02/22)
Mystery of CXIV の手がかりに関する追加情報。Witness Testimohy は目撃者情報とでも訳せばいいのですかね。 - Art of Fugue: More Evidence
目撃者情報の更なる追加情報。7th May 2022に更新されています。 - Fugue Visualisations 24th Jul 2022
Contrapunctus 3 と 5 のテーマの展開をグラフ化する試みの紹介です。 - A mountaintop you have to climb at some point 20th Sep 2022
オランダバッハ協会のYouTube演奏に対するコメントです。この演奏のユニークさを “A mountaintop you have to climb at some point” と紹介しています。 - Art of Fugue Updates – April 2023
AoF Bibliography and Conjectural Completions of Contrapunctus XIV のアップデート状況に関する報告と日本の二つのサイトの紹介など。 - Walter Kolneder’s “Die Kunst der Fuge” – Overview 17th Jun 2023
- Walter Kolneder’s “Die Kunst der Fuge” – The Final Fugue 18th Jun 2023
- Walter Kolneder’s “Die Kunst der Fuge” – The Completion of the Final Fugue 18th Jun 2023
Walter Kolneder の Die Kunst der Fugeの紹介です。Overviewは目次を紹介、The Final Fugue はVolume 3 Special Investigations: The Final Fugue (pp280-300)のドイツ語から英語への翻訳、The Completion of the Final Fugue はその続きの部分、となっています。
Kolneder の著作は “I am not too sure that it offers too many insights beyond the superficial recounting of what others have said” ではあるが、カバーしている範囲が広いので、”but some of it makes for interesting reading, particularly the back and forth between Riemann and Ziehn.”という理由で取り上げたようです。 - Art of the Fugue: Video Series and Wolfgang Graeser book 18th Dec 2023
Wolfgang Graeser 論文の全訳とDreistromlandのYouTubeビデオの紹介。
Graeser 論文は1924年に公開されています。AoF研究の古典といってよいものですが、ドイツ語で英訳されてはいません。これをGoogle翻訳とChatGPTを使い、英語に自動翻訳しています。スムーズに読めますので、良い出来だと思います。論文の内容も素晴らしい。AoF愛好家は必読。
DreistromlandのYouTubeビデオについては次項を参照して下さい。 - Art of Fugue and Arsene Lupin updates 2nd Jan 2024
上記の Dreistromland のビデオの紹介です。このビデオは興味深いです。
CXIVの謎を中心にAoFを分析する全10本、6時間位のYouTube動画です。Dreistromland というハンドル名のドイツ人が作者です。CXIVの謎に関する主要な論文を紹介/分析し、まとめとして彼の三重フーガとしてのコントラプンクトゥス 14 の独自の完成版を提示し、AoFの最終楽章となる新規の独自の四重フーガを提案しています。
後は、現時点の最新の関連データの一覧です。
- Bach Lectures 13th Jan 2024
フーガの技法とバッハ全般に関するビデオ/ポッドキャストの一覧です。 - An Updated “Die Kunst der Fuge” Bibliography (Papers) 22nd Feb 2024
フーガの技法に関するインタネットで参照可能な論文の一覧です。 - An Updated “Die Kunst der Fuge” Bibliography (Books) 14th Apr 2024
フーガの技法に関する本の一覧です。 - AOF: Recordings and Completions 23rd Nov 2024
フーガの技法に関する録音の一覧です。
Harf of the Alphabet の紹介はここまで。バッハ好きには見逃せないサイトです。AoF/CXIVに興味のある方は是非ご覧になって下さい。
Contrapunctus XIV Completions に CXIV の完成版のYouTubeリストが紹介されています。
半分位は初めて聴く作品でした。逆にゴンツ作品や関連する作品は入っていません。まあ、Contrapunctus XIV Completions には両方とも入っていますので、ここをチェックすれば必要十分でしょう。
YouTubeリストで発見した興味深い演奏です。
Eskeland はノールウェイの人で、この補作は前回ご紹介した Indra Hughes の論文を参考にして作曲されています。ただ、Eskeland は Hughes の「バッハの数値信仰から判断して、補作部分は47小節で終わるべき」という提案には与しません。”If we desire to finish the quadruple fugue in the style of Bach, it would be technically impossible to do so with only 47 bars.” と主張します。詳しくはYouTubeのコメントにリンクされている pdf に述べられています。そちらをご覧ください。
こちらは ゴルツの補作をオルガンで演奏したもの。演奏、録音共に以前ご紹介したYouTube動画より良いと思います。
演奏は
Recorded at the Great Organ of St. Mark’s Church, Zagreb, 2017
Published by Croatia Records on CD:
BACH: Die Kunst der Fuge Organ by W. Eisenbarth (2011) – III/41
だそうです。
大規模(?)なオルガンを使った壮大なバッハ演奏ですが、声部の分離がよく、フーガの進行が聞き分けやすいです。